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イランの対米報復、中東各地に広がるおそれ - 日本経済新聞

【ドバイ=岐部秀光、ワシントン=中村亮】米軍によるイラン革命防衛隊司令官の殺害は、両国に深刻な報復の連鎖を招くおそれがある。革命防衛隊幹部は中東にある米関連施設やホルムズ海峡を航行する船舶などが攻撃対象になると発言、トランプ米政権は中東に米兵を増派する検討に入った。対話のチャネルがない両国が「レッドライン(越えてはならない一線)」を互いに見誤り、偶発的に衝突するリスクがくすぶる。

イランによる報復はイラクやサウジアラビアにある米国の施設が標的となる可能性が指摘される。無人機やミサイルだけでなく、サイバー攻撃もイランの選択肢となる。

革命防衛隊幹部はイスラエルの都市テルアビブも攻撃対象の候補と明言した。中東各地に展開する親イラン民兵組織が手足となる可能性もあり、軍事的衝突が幅広い地域に広がるおそれもある。

数日中に公表するとみられるイラン核合意の義務停止「第5弾」にもウラン濃縮レベルの大幅な引き上げなど強硬策を盛り込む懸念がある。

イラク情勢の混迷が深まる懸念も強い。フセイン政権崩壊後、もともとイランと同じイスラム教シーア派が国民の多数を占めるイラクで、イランは有力政治家や民兵組織とのつながりを深めた。過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討を優先する米国も親イラン民兵の力を間接的に頼った。

イランの影響力をそごうとする米軍のイラク攻撃は国民の反米感情を高めているもようだ。イラク議会が米軍の撤退を求める決議を投票する可能性も指摘されている。

イラクを舞台にした米とイランの対立は高まっていた。2019年12月27日にはイランが支援するとされる武装勢力の攻撃で米民間人1人が死亡、米兵4人が負傷した。国務省高官は「忍耐も限界に達した。警告でなく行動に出る必要が生じた」と振り返る。

ブルームバーグ通信によると、トランプ氏は米国人死傷者が出たとの報告を受け、ソレイマニ司令官の殺害計画の策定を即座に指示。クリスマス休暇中だったペンス副大統領やポンペオ国務長官、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)らと協議した。ソレイマニ氏が3日未明にバグダッドの国際空港に到着するとの情報をつかみ、無人機による精密攻撃を実施した。

トランプ氏は19年6月にイランが米無人機を撃墜した際には、イランへの空爆を実行直前に中止した。米軍高官は空爆でイラン側に150人の死者が出る可能性を報告。無人機撃墜で米国側に死傷者はなく、釣り合わないと判断したためだ。

元国務省高官のマイケル・シン氏は、米国に死傷者が出ればトランプ氏がレッドラインを越えたとみなし、軍事攻撃に踏み切ることが今回明らかになったと指摘する。

だがイラン側からすればイラクやシリアでISの掃討作戦を指揮するなどカリスマ的な英雄であるソレイマニ氏の殺害こそ、一線を越えた暴挙と映っただろう。「戦争は望んでいない」というトランプ氏の発言をイランの最高指導者ハメネイ師が額面通り受け取る可能性は小さい。

米とイランの挑発の応酬には両国の指導者が互いのレッドラインがどこにあるのかを把握し切れていない状況がにじむ。

イランと米国の軍事力には圧倒的な差があり、常識的には直接の武力衝突を避けるのがイランにとっての得策だ。しかし米国の制裁で経済が悪化するなか、イラン国内ではロウハニ大統領ら穏健派の立場が弱まっており、保守強硬派の主導で合理的な判断が働かないおそれもある。

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January 04, 2020 at 10:52AM
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