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【地球コラム】新型コロナ、世界経済直撃 - 時事通信ニュース

2020年05月03日17時00分

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長=2020年3月3日、ワシントン【AFP時事】

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長=2020年3月3日、ワシントン【AFP時事】

◇債務膨張が危機増幅

 新型コロナウイルスが世界経済を直撃している。主要各国・地域は過去最大規模の経済対策を導入。米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ主要中央銀行もなりふり構わず一般企業や金融機関に対して直接的な資金繰り支援に乗りだし、新型コロナに端を発した金融・経済危機を何が何でも回避しようと必死だ。今そこにある危機を克服するためには各国政府による巨額資金投入はやむを得ない。

 コロナは治療薬やワクチンの開発でいずれ終息する。新たなリスク要因が次々に加わらないことが大前提となるが、新型コロナ流行に伴う金融・経済危機も巨額資金投入で回避できれば、景気も回復するだろう。だが、問題はその後だ。大きな危機を克服するたびに官民を問わず地球規模で一段と膨れ上がる巨額債務。主要各国の政治指導者らは、将来的に金融・経済危機に陥るリスクをより高めて危機克服を一層困難にする債務膨張問題からもはや目を背けてはならない。(時事通信社外国経済部長・前ニューヨーク総局デスク 齋藤淳)

◇リーマン・ショックほうふつ

 「これまでのパターンとは異なる、いまだかつて見たことがないような急降下だった」。3月に入ってから急激に値を落とした米株式相場について、ある金融関係者はこう表現した。ダウ工業株30種平均は2月20日の時点では終値ベースで2万9000ドル台を維持していたが、その後は急降下。3月16日には終値の下げ幅としては過去最大の2997ドル安を記録、18日には終値ベースで2万ドル台、23日には1万9000ドル台をそれぞれ割り込んだ。また、1~3月期のダウ平均の下げ幅は過去最大の6621ドルに達し、米メディアによると、下落率(約23%安)は1987年のブラックマンデー以来の大きさとなった。さらに、債券市場でも利回りが急変動するなど、金融市場全般が一時かなりの緊張を強いられる展開となった。

 ニューヨーク金融市場がなぜ歴史的な大混乱に陥り、FRBが2008年のリーマン・ショック(金融危機)時をほうふつとさせる、あるいは当時を上回るほどの異例の大幅緩和や緊急措置を矢継ぎ早に講じざるを得ない事態に陥ったのか。その理由を探ると、世界の経済システム全体を根底から破壊しかねない構造的な問題も浮かび上がる。

急落した株価を表示するニューヨーク証券取引所のボード=2020年3月18日、ニューヨーク【AFP時事】

急落した株価を表示するニューヨーク証券取引所のボード=2020年3月18日、ニューヨーク【AFP時事】

◇過去の後遺症と対策の副作用

 米株価が2月下旬から3月下旬にかけて急降下した背景には、(1)「見えない敵」に対する極度の不安心理(2)景気失速懸念の急速な高まり(3)コンピュータープログラムを駆使した高頻度のアルゴリズム取引拡大(4)SNSを通じた臆測情報などの瞬時の拡散(5)石油輸出国機構(OPEC)加盟・非加盟国による協調減産協議の決裂に伴う原油価格の急落(6)実体経済と株価の乖離(かいり)-などがあったが、08年の金融危機の後遺症やその対応策の副作用も金融市場の混乱に一段と拍車を掛けたもようだ。

 米国では08年の金融危機後、金融機関による過剰支援などを背景に利払いさえままならない「ゾンビ企業」や巨額債務企業が増加。また、金融危機後の超低金利や低金利を受けて仕組み債であるローン担保証券(CLO)などのハイリスク商品や低格付け社債に資金が大量に流入。コロナの予想外の感染拡大で景気の先行き懸念が一気に高まり、リスクの高い資産からの資金の巻き戻しが急加速したため、債券市場や社債市場でかなりのストレス(緊張感)が生じ、金融市場全体が大きく混乱したとみられている。

◇異例ずくめの緊急措置

 こうした事態を受け、FRBは立て続けに大幅利下げに動いて事実上のゼロ金利政策と無制限の量的金融緩和を再開。米国債と住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れはもとより、コマーシャルペーパー(CP)や資産担保証券(ABS)および商業用不動産担保証券(CMBS)の買い入れ、CPの主要な買い手であるマネー・マーケット・ファンド(MMF)への資金供給など、一般企業や金融機関および投資ファンドなどに対する直接的な資金繰り支援も開始。加えて、通常は金融機関を相手とするFRBが一般企業に対しても極めて異例の直接融資も実施、社債の買い入れや地方債の購入にも事実上乗り出した。

 こうした異例ずくめの緊急措置は、金融危機の後遺症が残る企業や経営が脆弱(ぜいじゃく)な企業の連鎖破綻に加え、投資家心理の急速な冷え込みでさまざまな金融商品や資産から一斉に資金が逃げ出してしまう信用危機や金融危機を招くリスクに対し、FRBがいまだかつてないほど強い警戒感を抱いていることを如実に示している。新型コロナの大流行をきっかけに噴き出した積年の一切合切の問題を巨額の資金投入で一気に封印してしまいたいという思惑も見え隠れしている。臭いものには一気にふたをして何事もなかったかのように振る舞う大胆かつ徹底的な対症療法は良くも悪くも米国らしいやり方で舌を巻く。

人けがなくなった米ニューヨークの繁華街タイムズスクエア=2020年4月3日、ニューヨーク【AFP時事】

人けがなくなった米ニューヨークの繁華街タイムズスクエア=2020年4月3日、ニューヨーク【AFP時事】

◇「進むシャドーバンキング化」

 「米国経済に一点の曇りなし」。筆者がニューヨークに駐在していた15~19年、ウォール街(金融街)ではこう豪語する金融関係者も多かった。筆者は08~11年に金融危機の淵からはい上がる米国経済全般を直接取材した経験もあるが、確かに08年の危機を経て金融機関の経営状態は資本の積み上げやリスク管理などで健全化し、リーマン・ショックのような信用危機や金融危機が起こる兆候は少なくとも表面的には見られなかった。

 ただ、金融危機後の後遺症やその対応策の副作用から官民を問わず米国を中心に世界的に膨れ上がる一方だった巨額債務問題への懸念が浮上していたのは事実だった。

 「(人類が)学んでいない最も基本的な教訓の一つは、深刻な金融危機を克服するためには債務をかなり積み上げてしまいがちだということだ」。世界的に膨張していた巨額債務問題に関し、金融コラムニストのラウル・エリサルデ氏は約1年半前に警鐘を鳴らしていた。何をきっかけに危機が発生するかはさすがに予言していなかったが、米経済誌フォーブスへの寄稿記事で「新たな危機が醸成されつつある」と指摘、「歴史は一定の水準を超えると、背負っている債務負担があまりに重くなって耐え切れなくなるということを啓示している」と警告していた。

 また、FRBに近い筋は「08年の金融危機を受けて、大手金融機関のバランスシートは大幅に改善したが、ハイリスク商品への投資は投資会社や投資ファンドなどが請け負うことになり、ある意味シャドーバンキング化が進んだため、最大のリスクはリスクがどの程度の規模なのか誰にも分からなくなってしまったことだ」と危惧していた。

◇一段の債務膨張避けられず

ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=2020年4月18日、ワシントン【AFP時事】

ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=2020年4月18日、ワシントン【AFP時事】

 国際金融協会(IIF)のデータによると、世界全体の債務残高は19年7~9月期には国内総生産(GDP)比で322%超と過去最高水準に到達。01年のハイテクバブル(ITバブル)崩壊後には250%に達し、08年の金融危機後には300%を超え、その後も膨張の一途をたどっていた。米議会予算局(CBO)は19年8月の時点で、連邦債務残高のGDP比は19年度(18年10月~19年9月)の78.9%から29年度には95.1%に達すると推計、第2次世界大戦後の過去最高水準に迫るとの見通しを示していた。

 一方、経済協力開発機構(OECD)のリポートによれば、世界の金融機関以外の企業による社債発行残高は19年末時点で13兆5000億ドルと過去最高を記録し、08年末時点に比べて2倍超の水準に達した。このうちの約半分程度は米国企業による社債で、08年末時点に比べてほぼ倍増。また、08年末時点では取るに足りなかった中国など新興国の企業による社債の急増も目立っていた。

 今回のコロナ危機で官民を問わず世界的に債務規模がとてつもない水準にさらに膨れ上がるのは想像に難くない。コロナに端を発した危機はある意味、人類には予測不可能で不可抗力的なリスク要因であり、通常の金融・経済危機とは次元の異なる「命に関わる問題」であるだけに、各国指導者らが「戦時」さながらの大規模な財政出動に動くのもやむを得ない。

 しかし、全世界の指導者らは今回のコロナ危機を受け、巨額債務という「つけ」を将来に回せば回すほど、新たに襲来するさまざまなリスク要因に対しての抵抗力が格段に弱まり、金融・経済危機に陥るリスクがさらに高まるということを一つの教訓とすべきだ。リスクが巨大化する一方の金融・経済危機を将来どこかの時点でわれわれ人類が克服できなくなれば、その時にこそ本当に世界は大恐慌に陥るだろう。債務の肥大化を背景に世界の経済システムが機能不全に陥り、われわれが今ある経済的な豊かさを突如失えば、世の中は殺伐とした光景となり、世界的な安全保障も脅威にさらされ、大きな戦争にも突き進みかねない。

◇債務膨張の問題直視を

 巷間(こうかん)では、野球に例えて01年のハイテクバブル崩壊が「1アウト」、住宅バブル崩壊後の08年のリーマン・ショックが「2アウト」、次なる金融危機が発生すれば「3アウトチェンジ」といったこの世の終わりのような悲観的な声もささやかれていた。こうした大予言めいたものはさておき、われわれは今回のコロナ危機を教訓として、地球規模で一段と膨れ上がる巨額債務問題がいつかは世界的な信用危機に発展し、世界の経済システムを根底から破壊する恐れがあるということを悟らなければならない。

 主要各国の指導者らは官民の債務を大幅に減らすためには、国民に痛みを伴うさまざまな改革に着手する以外にもはや採るべき選択肢はないだろう。だが、ポピュリズム(大衆迎合主義)的な政策を打ち出す政治指導者が次々に誕生する昨今、構造的な問題に深くメスを入れて抜本的な改革を断行できる指導者は限りなく少ない。

 今回のコロナの感染拡大で新興国や途上国が相次ぎ債務危機や経済危機に陥る恐れがある上、近年の地球環境の著しい変化により世界各地で大災害が発生するリスクも高まる中、あまり間を置かずに危機が第2波、第3波と襲来する恐れも否定できない。危機が連鎖したり、連続的に発生したりする事態にならないことを祈るばかりだが、主要各国の指導者らは巨額資金投入でコロナ危機を克服して景気回復を実現した暁には、手遅れになる前に債務膨張問題と真剣に向き合う必要がある。でなければ大予言めいたものも現実味を帯びるかもしれない。

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