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現代日本の処方箋 経済成長の新分析法を使って提案(NIKKEI STYLE) - Yahoo!ニュース

経済の歩みを統計データを使って記述する「数量経済史」と、現代経済を分析の対象にするマクロ経済学を統合する試みが活発になってきた。一橋大学経済研究所の深尾京司特任教授は、明治維新から現代に至る日本経済の盛衰を最先端の分析手法を使って描き出す作業の中から、難題を抱える現代日本を救う処方箋を導き出した。

深尾氏は『世界経済史から見た日本の成長と停滞――1868―2018』(岩波書店、20年3月)第1章で、経済成長の源泉を解明する「成長会計」と呼ばれる最新の手法を活用し、19世紀後半以降の日本と英国、米国を比較した。数量経済史の大家で、超長期の経済成長の分析に成長会計を導入した英ウォーリック大学のニコラス・クラフツ教授の影響を受けたという。労働者の教育水準の上昇、低賃金の産業から高賃金の産業への移動といった労働の質向上が国内総生産(GDP)に及ぼす効果を明らかにした点が新しい。江戸時代までの日本の発展がテーマの序章には、幕末開港後に急性感染症が流入し、死亡率が上昇したとの記述もあり、新型コロナウイルス対策の参考にもなる。

第2~5章では、明治維新以降の150年間を4期間に分け、歴史上の事実を年代順に記している。中世から現代に至る1000年のGDP推移を推計した『日本経済の歴史』(全6巻、いずれも共著、岩波書店、17~18年)のうち、深尾氏が担当した「成長とマクロ経済」の節に加筆した内容だ。海外との比較を増やし、すべての期間に最新の手法を適用して労働の質向上の影響、地域間の経済格差の問題を掘り下げた。

現代日本の長期停滞を論じた第5章と、停滞脱出への方策を示した終章は、同氏の『「失われた20年」と日本経済』(日本経済新聞出版、12年3月)が下地となっている。産業の新陳代謝や空洞化に着目した同書の議論を発展させ、非正規雇用の問題、企業の規模による生産性格差、2000年代半ば以降の資本蓄積の停滞に焦点を当てた。

世界の超長期GDPを推計する研究の基礎を築いた英経済学者、故アンガス・マディソンは欧州諸国の成長会計に注力した時期があり、弟子に当たる研究者も生産性の分析に取り組んでいる。数量経済史と生産性分析の融合は世界の潮流であり、深尾氏もこの流れをくむ。長期停滞から脱出するにはどうすればよいのか。多様な知を総動員しながら糸口をつかむしかない。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2020年4月25日付]

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