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米油送管停止でパニック、社会全体がサイバー犯罪者の「人質」に - 日経ビジネスオンライン

 サイバー攻撃によって止まっていた米東海岸地区の石油パイプラインが5月12日に再稼働した。停止した5月7日以降、ガソリンの枯渇を恐れた米市民が「パニック買い」に走り、米南東部を中心に給油所で在庫切れが相次いでいた。パイプラインの再稼働までさらに数日を要していれば、ガソリンのほかジェット燃料も深刻な在庫不足に陥る恐れがあった。石油に依存した大勢の暮らしが、危機にさらされた。

 インターネットが本格的に普及して以来、サイバー犯罪者は個人から企業へ標的を広げることで凶悪化してきた。そしてついに社会全体を混乱へと陥れる時代に突入した。

米南東部ではガソリンを手に入れようと給油所に長蛇の列ができた(写真:AP/アフロ)

情報機関のお株を奪うサイバー犯罪者

 米連邦捜査局(FBI)はロシアを拠点とするハッカー集団「ダークサイド」の仕業と断定。ダークサイドは今回、「ランサム(身代金)ウエア」と呼ばれるコンピューターウイルスを使って、パイプライン運営会社の米コロニアル・パイプラインを襲った。感染するとパソコンやサーバー内のデータが壊れ、「元に戻してほしければ金銭を支払え」と脅すメッセージが画面に現れるタイプのウイルスである。

 ダークサイドは米東海岸地区に住む人々の暮らしを「人質」に、コロニアルに「身代金」の支払いを強要した格好だ。

 社会を混乱に陥れるサイバー攻撃はこれまで、ダークサイドのようなサイバー犯罪者ではなく、国家が運用するサイバー部隊が手掛けるのが常だった。ハッキングの技能を身につけた隊員たちが軍や情報機関の指揮下で、国益を背負って活動している。

 代表的なのが、ロシアによる非友好国へのサイバー攻撃だ。例えばウクライナでは2015年末と16年末に電力システムが立て続けにサイバー攻撃を受け、大規模な停電が発生。17年6月には金融機関や病院、空港などのシステムがサイバー攻撃で一斉に故障し、ウクライナ全土がパニックに陥った。

 いずれもウクライナと対立するロシアの情報機関、軍参謀本部情報総局(GRU)が手掛けたと米政府は断定している。社会を混乱させることで、ロシアの威力を誇示する政治的意図が込められているとみられる。

 これに対してダークサイドは5月10日、自分たちのウェブサイトで「我々は非政治的だ」「目的は金もうけだ」などとする声明を発表した。バイデン米大統領も5月13日の記者会見で、「ロシア政府は関与していない」と語り、“純粋な”金銭目的のハッカー集団であるとの見方を示した。

 政治的意図を持たない民間のサイバー犯罪者が社会を撹乱(かくらん)した意味は大きい。

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