年が明けても、日本の景気は相変わらずの曇り空である。
消費税増税があった割に国内需要が底堅いのは確かだ。米中貿易摩擦は第1段階の合意に達し、とりあえずは休戦モードである。
それでも企業の景況感は悪化したままだ。東京五輪後に景気が落ち込まないか。中国経済がさらに減速することはないのか。
懸念に拍車をかけたのが新年早々のイラン情勢の緊迫化だ。米国との軍事衝突が現実になれば、原油を中東に依存する日本は打撃を受ける。東京株式市場の大発会が大荒れとなったのも頷(うなず)ける。
≪通商協定の好機生かせ≫
不確実性の高まりに企業が身構えるのは無理からぬことだ。警戒を怠れないのは当然である。
ただし、先行きにリスクがあるとしても足元の経済が完全に失速しているわけではない。ここはあえて企業が前向きな姿勢で事業を展開するよう期待したい。萎縮するばかりでは展望も開けまい。
設備や人材、技術に対する投資によって新たな成長への基盤を築く。中長期的な戦略に基づき、やるべきことをぶれずに行う。こうした流れが強まれば、自(おの)ずと日本の経済活力も高まるはずだ。
波乱の幕開けとなった令和2年をそんな一年としたい。
振り返れば、世界中から需要が消失したリーマン危機がトラウマなのかもしれない。多くの経営者は将来のリスクに備えて慎重な経営に徹するようになった。
この傾向は過去最高水準の収益をあげる企業が続出しても変わらなかった。賃上げが力強さに欠けたのは、景気が悪化したときに重荷になるとみて、思い切った引き上げに二の足を踏んだからだ。
だが、過去の好業績で余力を蓄えた企業は少なくない。日本企業がため込んだ現預金残高は平成30年度末で約240兆円もある。リストラで筋肉質な経営体質に転換した企業も多い。そんな企業は将来の発展に結びつけられる事業をためらうべきではない。
例えば、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などの通商協定をうまく活用して海外での新たな事業に乗り出すのも一つである。TPPは発効から1年が経過した。欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も昨年2月に発効し、日米貿易協定も動き出した。
経済が不透明だからといって関税撤廃などの恩恵を利用しない手はない。特に海外に出たことのない地方の中小企業は新たな飛躍につなげられる可能性がある。
TPPなどを活用する企業はようやく出始めたところだ。輸出品が日本製だということを証明する新たな手続きなどに準備が必要とみて、様子見をしている企業もあるようだ。特に中小企業には迅速な対応が難しい面もある。
だが、農畜産物や繊維製品などには関税が即時撤廃されたものがたくさんある。欧州は日本食ブームで、消費者の購買力も高い。こうした好機を存分に生かし、新たな成長分野を切り拓(ひら)きたい。
≪国は環境整備に徹せよ≫
本格的な人口減少社会で日本が豊かな暮らしを維持していくためには、労働生産性を高める取り組みも引き続き重要である。
日本生産性本部が昨年末に発表した1人当たり労働生産性をみると、日本は先進国クラブとされる経済協力開発機構(OECD)の加盟国中、21位だった。先進7カ国(G7)では最下位で、米国と比べると6割強にすぎない。
もっとも、生産性の低さは、逆に上昇させる余地がたくさんあると捉えることもできよう。
人手不足に悩む企業ほど労働生産性が低い傾向にある。農業や小売業、サービス業などの非製造業は特に、デジタル技術の活用や多様な働き方を導入することで生産性を高める取り組みを強めるべきである。
政府に求めたいのは、こうした企業の改革を後押しするための環境整備に徹することだ。
安倍晋三政権は昨年、事業規模が約26兆円という大がかりな経済対策を講じた。日銀の大規模緩和が続く日本はもちろん、欧米でも金融政策の効果には限界があるとの指摘は多く、世界的に財政政策に頼ろうとする傾向がある。
ただ、やみくもに財政資金をつぎ込むだけでは景気刺激の効果もすぐに剥落する。大切なのは、政府の施策を通じて、民間企業の積極的な投資や賃上げにつなげられるかどうかである。
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January 08, 2020 at 03:00AM
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