創業わずか5年の東京の企業が開発した、ある吸着材。水に浮かんだ油を吸い取りますが、水は吸い取らないという驚きの技術が使われています。今、油の処理に困っている工場やお店などから注目されています。この吸着材、インド洋の島国モーリシャスで起きた貨物船の座礁事故への対処で活用されるそうですが、いったいどんなもの?経済部の西園興起記者、教えてください!
西園記者
東京 大田区の繊維メーカー「エム・テックス」が、ナノファイバーと呼ばれる極細の繊維をもとにして開発した素材です。その細さは1ミリの100万分の1のナノ単位の細さ、ヒトの髪の毛の100分の1未満といいます。会社を訪ねて、実際にどう使うのか、見せてもらいました。
水と油が入ったボウルに、吸着材をかぶせると、きれいに黒い油だけを吸い取りました。ボウルの中には透明な水だけが残っていたのです。詳しくは企業秘密だということですが、この会社は、独自に開発したナノファイバーを複雑な構造で組み合わせることで、水をはじく性質を持たせることに成功しました。
一方、微細な繊維が油だけを吸いとります。会社によりますと、従来の吸着材は油と一緒に水も吸収してしまい、油を吸い取る効率が悪かったということです。しかしこの吸着材なら20グラム当たり1リットルの油を吸うことができます。
この吸着材はモーリシャス沖で貨物船が座礁した事故で、大量に流出した油を除去するため、19日、現地に送られたということです。
会社によると、ナノファイバーは、製造業やアパレル、医療などの分野に革新をもたらすとして期待され、世界で企業が研究開発にしのぎを削っていると言いますが、これまで大量生産が難しいと言われていたそうです。しかし今から5年前に技術者が集まって、このナノファイバーを大量生産し、さまざまな製品の商品化を実現するため会社を設立しました。大量生産の技術は3年前に確立し、その技術で特許も取得したそうです。
西園記者
大量の油を処理する必要がある飲食店や総菜をつくるスーパー、それに機械や配管から漏れた油を拭く必要がある工場からも注文が寄せられています。
去年8月に起きた佐賀豪雨で、佐賀県大町町の鉄工所から大量の油が流出する事故がありました。会社ではナノファイバーを使った吸着シート3000枚を支援物資として送ったところ、現場で復旧作業に取り組んでいた自衛隊員から「これは、使える!」という声があがり最終的に19万枚以上を支援したそうです。
佐賀での実績から、今回のモーリシャスの事故でも声がかかり、試験的に1200リットル分の油を吸い取る量を支援物資として送りました。現地で大きな課題となっている、マングローブの間に入り込んだ油の除去にも活用してほしいとしています。
西園記者
重油を吸収した場合、日本では産業廃棄物として処理されることになっています。会社では、モーリシャスでも現地のルールに従って、処分することになるとしています。将来的には、水を吸わず油だけを吸着するので、発電の燃料として使用できないか、検討しているということです。
エム・テックスの竹ノ下友基部長は、「モーリシャスでの事故が起きたあと、何かできないかという思いがありました。美しい環境で、今回の事故が起き、現地の方々は大変な苦労をされていて、メード・イン・ジャパンの技術を役立ててほしい」と話していました。
ナノファイバーをいかした素材は、断熱性や吸音性が通常の繊維よりも高いとされ、住宅用建材としても期待されるほか、マスクの素材としても使えるということで、さまざまな国から商品開発の話を持ち掛けられているそうです。
久しぶりに聞いた「メード・イン・ジャパン」の活躍ということばの響きにワクワクしました。油の吸着以外にも用途が広がってほしいと思います。
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August 20, 2020 at 06:17PM
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