
◆ラーメン のれんのヒストリー 替え玉(13)「桂花」(熊本市中央区)
もう25年近く前の学生時代の話。福岡から上京した私は、里心こそつかなかったが、豚骨ラーメンのない生活は耐えられなかった。とはいえ当時の東京には豚骨ラーメン店は少ない。ネットも普及しておらず店を探すのも一苦労。そんな中、高まる“豚骨欲”を満たしてくれたのが熊本発祥の「桂花」だった。
東京に進出したのは1968年とかなり早く、九州豚骨の草分けとして知られる。「熊本ラーメンを国民食にしたい。創業者はそう考えていました」とは、桂花社長の中山雅光さん(49)。55年に久富サツキさん(故人)が熊本市内で創業。ほどなく人気となった理由の一つが「マー油」にあった。にんにくや香味野菜をラードで揚げた、今や熊本ラーメンの代名詞。桂花はその元祖とされている。
「魔法のようにおいしくなるから『魔油』。転じてマー油です」(中山さん)。そのおかげか10年目に市内に2店舗目を出すと、次は県外出店を模索。そこで久富さんが「福岡に出すくらいなら東京に行こう」と勝負をかけたという。
東京進出の際、新メニュー「太肉麺(ターローメン)」を考案している。基本のラーメンに豚の角煮などをトッピング。学生の私のような若者の胃袋を満足させたボリュームある一杯で、中山さんは「東京では今も1番人気」と言う。
久しぶりに頂くと「これこれ」と懐かしさがこみ上げてきた。豚骨メインで鶏がらを少し混ぜたスープ。あっさりめの味わいにマー油がドライブをかけてくれる。麺はコシがあり、柔らかい角煮は食べ応え十分。キャベツも山盛りで野菜不足を補った気になっていた昔を思い出した。
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「採算より味にこだわってきた。でも経営者として甘かった」。2010年11月、久富さんの娘で2代目の旅井瑞代さん(73)は熊本市で会見し、民事再生法適用を申請したことを明かした。順風満帆に見えていたが、過剰投資や競争激化で経営は悪化していた。
それでものれんを下ろさずに済んだのは、一大チェーン「味千ラーメン」を展開する「重光産業」社長の重光克昭さん(52)の存在があったから。「熊本ラーメンを広げた第一人者。東京にも知名度がある桂花を守りたかった」。幾度となく旅井さんの相談に乗り、資金援助をしてきた。11年には桂花から事業譲渡を受け、社長に就任した。
重光さんは言う。「歴史はつくろうと思ってつくれるものではない」と。そして意外な言葉をつないだ。「家族でもありますから」
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重光さんの父親の孝治さん(1925~97)は台湾生まれで、15歳の時に九州に来て、名を劉云祥(りゅううんしょう)から改めた。最初の結婚相手こそが桂花創業者の久富さんだった。旅井さんと重光さんは異母姉弟に当たる。
孝治さんは熊本ラーメン草創期のキーパーソンでもある。52年に福岡県久留米市の「三九」が熊本・玉名に支店を出し、そこを訪れた男3人が熊本市にラーメンを広めたのはよく知られた話。一人は「松葉軒」、もう一人は「こむらさき」を開業。そして残る一人が孝治さんだった。当然、久富さんの夫として桂花の立ち上げに関わった。マー油は台湾南部の麺料理を参考に生みだし、屋号は兄の名前「桂火」から取った。
離婚して桂花を離れ、68年に味千ラーメンを創業。重光さんが2代目を継いでからも成長を続け、今や国外も含め800店以上を展開するまでになった。重光さんは「父が築いた人と人とのつながりのおかげ」と感謝し、今でも経営判断を求められたときは「もし先代だったら」と想像してみる。旅井さんから相談を受けた際も同じことをした。
「父はずっと桂花のことを気にしていた。生きていたらきっと手助けしたと思う。家族として」
重光さんは一昨年、桂花社長の座を中山さんに譲った。桂花は桂花らしく、味千の色に染まってほしくないと考えたからである。
歴史はつくろうと思ってつくれるものではない-。
重光さんの言葉を反芻(はんすう)した。私にとっての桂花は東京で食べた熊本の味。それが学生時代の日々とともに記憶されている。重光さんが守ったのはのれんだけではない。老舗は人々の思い出も背負っている。 (小川祥平)
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January 09, 2021 at 12:42PM
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思い出背負った老舗の豚骨 守られた「マー油」の味 - 西日本新聞
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