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経済力振りかざすトランプ氏、敵も味方も関係なし - ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

トランプ政権は経済力を地政学上の武器として利用している(写真はウィスコンシン州の集会に登壇したトランプ氏、14日) Photo: Joshua Lott/Getty Images

 【ワシントン】ここ数週間の間に世界で起きた一連の出来事を見ると、トランプ政権が敵味方を問わず、米国の経済力を――関税や制裁などを通じて――争いに対する地政学上の武器として利用していることが分かる。

 そうした戦略は多少の短期的な利益をもたらしてはいるが、長期的には世界に対する影響力を失う可能性があるなどのリスクも抱える。

 トランプ政権は中国に対して、より多くの米国製品を買わせ、米国企業の扱いを改善するために関税を使った。イランに対しては核開発プログラムをめぐり制裁による圧力を強化。駐留米軍についてイラクと対立すると、同国政府がニューヨーク連邦準備銀行に保有する資金へのアクセスの制限を検討した。ロシアに対しては、同国産ガスをドイツに運ぶパイプライン建設プロジェクトに参加する企業を対象に制裁を科すと警告し、ドイツ政府をも苦しめている。

 もちろん制裁と関税の活用は目新しいものではない。しかし冷戦後の米国はトランプ大統領が就任するまで、明確な敵に対しても、主要友好国との協力においても、そうした手段を慎重に利用する傾向にあった。旧ソビエト連邦の崩壊後、米国の経済力はたいてい、米国の自由市場を核とする価値観に沿った貿易システムに他国を引き入れるための「アメ」として使われていた。

 米国がアメではなくムチを使うようになったのは、1990年代から2000年代にかけて自ら推進したグローバリゼーションの時代に、米国が他国のかもにされたとトランプ氏が考えていることが大きい。トランプ氏は世界の貿易システムが壊れているとみており、その修復やその他の目的追求のための手段として、米国の経済力を利用できるとトランプ氏は考えている。

 トランプ大統領は15日、中国との「第1段階」の合意文書の署名式で「われわれは過去の不当な行為を正し、米国の労働者や農業従事者、家庭に経済上の正義と安全のある未来を実現している」と述べ、こうした合意が25年前にあるべきだったと発言した。

米中は貿易交渉の「第一段階」合意文書に署名した(英語音声、英語字幕あり)

 エコノミストは、大恐慌と第2次世界大戦前に関税合戦が起きたことを挙げ、危険が差し迫っていると警告している。だがこれまでのところ、関税による悪影響は一部で懸念されていたほど大きくはない。

 米国はメキシコやカナダとの貿易合意を書き直し、中国から無理やり譲歩を引き出し、韓国や日本と新たな協定を締結し、ロシアや北朝鮮、イランの経済を圧迫した。その間、米国は史上最長の景気拡大と歴史的低水準の失業率を維持していた。ドルが最も重要な国際通貨としての地位を失うとの懸念もあるが、世界の中央銀行が保有する準備金で圧倒的に保有高が多いのは今でもドルで、国際的な借り入れもドル建てで行われている。

 PGIMフィクスト・インカムのチーフエコノミストで、オバマ政権で財務省高官を務めたネイサン・シーツ氏は「私なら(トランプ氏の破壊的な経済姿勢が)経済や信頼感、市場にもっと破壊的な影響を与えると予想していただろう」と話した。

 トランプ氏の補佐官を務めたスティーブ・バノン氏は、大統領はイランなどの敵対国に対してもっと制裁を活用すべきだと指摘した。「経済戦争は効く」とし、イランで起きている反体制抗議デモはその証拠だと話した。

 それでも多くのエコノミストは関税のせいで米国の成長と投資が鈍化し、世界的にビジネスに不透明感が生じるとみている。さらに言えば、米国がこのようにあからさまに経済力を行使することが必要だったかは分からない。米国が締結した最新の貿易合意の条項の一部はトランプ氏が就任早々拒否した環太平洋経済連携協定(TPP)に既に含まれていたからだ。

 トランプ氏の政策は長期的に米国の立場により大きな悪影響を及ぼす可能性があると多くの懐疑派は今も警告している。そうした政策は相手国を遠ざけ、最終的にはトランプ氏が行使している経済力そのものを弱めかねない。さらに、米国がこれまでに使った手段が米国に対して使われる恐れもある。シーツ氏によると、今ではどの国も関税を使う用意があるという。

 トランプ政権で国家経済委員会(NEC)の副委員長を務めたクリート・ウィレムス氏は政権が世界貿易システムの不平等への対応に関税を利用するのはもっともだと話す。ただ米国は自らが非難する不公正なプレーヤーになることは避ける必要がある。

 ウィレムス氏は「米国が実施すべき関税の数には限界がある」と話す。「ルールに基づく国際貿易システムは米国の長期的な国益にかなう」

 一部の地域では中国が米国の経済力を埋め合わせる勢力になるかもしれない。

 戦略国際問題研究所(CSIS)のデータによると、中国が2018年に中東の建設プロジェクトへの投入を決めた資金は220億ドルに上る。これは10年前の2倍以上だ。サハラ砂漠以南のアフリカへの投入資金は210億ドルに倍増し、イラン、トルコ、パキスタンを含む西アジア諸国とロシアに対しては40億ドルから140億ドルに急増した。

 ザイード大学(アブダビ)の政治学者、ジョン・フルトン氏はこうした投資について「中国が長期的により安定した潜在的パートナーとして認識される機会を生み出していることは間違いない」と話す。「中国は経済的な国政術を活用しているが、多くは好意的なもので、制裁や脅しよりもむしろインセンティブを与えている」

 例を挙げよう。中国は「一帯一路」構想――中国政府が影響力を広げるために世界規模で実施しているインフラプロジェクト――をサウジアラビアの経済改革計画と連携させている。サウジはパキスタン・グワダル港の石油精製施設に100億ドルを投資すると約束しているが、この施設は一帯一路のうち、600億ドルを投入するパキスタン区間の主要施設である。

 トランプ氏は中東から撤退したいと言ってはいるが、中東での米国の影響力は今も極めて大きい。イランと戦争になったときにサウジやアラブ首長国連邦(UAE)などのペルシャ湾岸諸国が安全保障を求める先は米国で、イスラエルとエジプトは何十億ドルという軍事支援を米国から受けている。

 一方、欧州は我の強い米国に必死に慣れようとしている。

 米国が2018年5月にイラン核合意を離脱し、イランに再び制裁を科したことで欧州連合(EU)とイランとの間の貿易は急減した。ドイツの自動車メーカーのダイムラーやフランスのエネルギー会社トタル、デンマークの海運会社APモラー・マースクなど欧州の大手企業はイランから撤退するか、2016年1月の核合意履行後に発表した投資計画を棚上げした。

 米国が大きな影響力を行使しているのは欧州企業が米国市場に大きく依存しているからであり、多くの国際的な取引がドル建てで行われているからだ。

 オバマ政権時代とトランプ政権への移行期に財務省高官を務めたアダム・J・シュビン氏は昨年のインタビューで「米国には今、外交政策であれ国内の目標であれ、非経済的な目標を追求するための並外れた、他にはない経済的影響力がある」と話した。しかし米政府の制裁対象と取引をする企業に対し、米国のブラックリストに掲載すると脅すいわゆる二次的制裁が幅広く実施され、「米国の同盟国を激怒させている」とシュビン氏は指摘した。

 EUは米国が再びイランに科した制裁の影響を最小限に抑えようとしているものの、ほとんどがうまくいってない。

 英国、フランス、ドイツの各国政府は制裁対象になる可能性のある資金の流れを伴わない、バーター取引に似たプログラムをイランと実施するため、インステックスという会社を立ち上げた。

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 これまでのところ同社は一つの取引も完了していない。それでもオバマ政権で財務長官を務めたジェイコブ・ルー氏は「欧州とイランのように、米国最大の友好国が米国にとって最も深刻な敵対国と協力して米国を回避する方法を見つけ出そうとしているのは非常に危険な兆候だ」と指摘した。

 イランが核合意で定められた濃縮ウランの生産制限を順守しないと発表したことを受けて、英仏独は先週、国際的な制裁の再開に向けて最初の措置を取った。欧州は圧力強化によって核合意を救うことを期待している。

  事情に詳しい3人の関係者によると、トランプ政権のある高官は3カ国に対し、対イランでより強硬な措置を取らなければ米国向けの自動車輸出に関税が課される恐れがあると警告していた。欧州の複数の外交官はそうした脅しはイランをめぐる決定に影響していないと話した。

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